破界篇第六話を終えて、クマリスの名前の由来やver.2からの偽レンダーシア世界とは何なのかなどについて考えを書いていきたいと思います。
以下ネタバレを含みます
過去作とのつながり
破界篇第六話の最後で護りの手の選定者であるファビエルと滅びの手の選定者であるメドナムの正体は天使であると明かされました。
その見た目からドラクエⅨの天使であると考えられます。
すでに神話篇で初代王者とグレナイルの存在がある事でドラクエⅨの世界との繋がりはありましたが破界篇でより一層明らかになったといえます。
また、予告として公開されたver.5.4の動画で復活した創世の女神ルティアナと思われる弓を持った女性の姿がドラクエⅨの女神セレシアとよく似ていることからもメインストーリー自体も過去作とのつなりが強調されてきたように見えます。
ただ、ドラクエⅨではセレシアの復活を成し遂げたあと天使たちは天に還り星となったわけですがその後も天使たちはⅨの世界やアストルティア以外に対しても破魂の審判を行ったりする役割があるかのような展開でした。
メドナムの台詞で「許可はとってきた」とありますので天使もしくは彼らを使役する何者かの存在があるという事になるのだと考えると、それは誰なのかなど多くの謎が残ります。
スライミーズも居なくなりますが、彼ら?が最も正体不明でした。
ファビエル・メドナム・クマリスの名前の由来は
ファビエルとメドナムに関しては以前に書いた記事の中で名前よ由来を予想していましたが破界篇を終えてみてその予想はどうだったのか。
ファビエルの関しては正直当たっていたのかは分かりません。
その後名前の由来になるヒントを見つけられなかったからですが今後も何か考え付けばその時はまた書いてみたいと思います。
メドナムに関しては当たっていたのではないかと考えています。
メドナムの由来に関わるヘルファイヤークラブ(地獄の火クラブ)という秘密結社が過去に存在した事は以前に書きましたがその創設者であるフランシス・ダッシュウッド男爵は若手政治家や芸術家とひろく親交を持って多くの秘密クラブを運営した人物でしたので破壊の手として芸術家でもあるマデサゴーラを選んだ事からもメドナムの名前の由来は正解だった可能性があると考えますが、それでも正体が天使であったのにその名前にメドナムが相応しいのかは疑問がのこるのかもしれません。
過去に書いた予想の記事です。
クマリスの名前の由来については
ver.2と破界篇の舞台となった偽レンダーシアに関する世界観を説明させてもらってからのほうがよいと考えるので後述させてもらいます。
偽りのレンダーシアとは
ver.2や今回の世界篇の舞台となった偽レンダーシア
この大陸は創生の霊核の欠片を手に入れた大魔王マデサゴーラによってレンダーシア大陸を模倣して創られた世界です。
マデサゴーラはこの偽りのレンダーシアで真のレンダーシアを侵食し塗り替え自らが新たな造物主となることを計画していました。
レンダーシア大陸を模倣しながらも各所にマデサゴーラ独自の創作が反映されていますし、そこに住む住人はマデサゴーラによって作られた存在や死者の魂が留め置かれていたりと様々です。
この偽りのレンダーシア大陸とドラクエⅩの世界観、少なくともver.2までの世界観の根底にあるものとしてグノーシス主義がある事はver.2当時から考察勢の方々から指摘があったと記憶があります。
このグノーシス主義とそれに大きな影響与えた古代ギリシアの大哲学者プラトンの考え方イデア論について、さらにプラトンの弟子であるアリストテレスによるプラトン批判を大まかに理解することが破界篇とクマリスを語るうえで大事と考えますので大雑把にですが書かせていただきます。
哲学や歴史に関し理解の深い方からすると間違いだらけとはおもいますがご容赦を
グノーシス主義
グノーシス主義はおよそ紀元三世紀から四世紀にかけて地中海世界で大流行した思想です。
古代ギリシア語でグノーシス(νῶσις)は「認識・知識」を意味する言葉であり、自らの本質と真の神について本当の認識ができるまでになることを目指す思想です。
グノーシス主義にかんしては地中海世界でも西方と東方で独自の思想や宗教に発展したり地中海世界以外にも伝播していますし、あくまでもキリスト教内での異端の一派という考え方をとる説もあったりとで細かくは書けませんが、その特徴は
物質と霊の二元論という部分にあります。
我々が生きるこの宇宙は本質的に悪の宇宙であり、神々が善の存在だという教えは間違いであるとグノーイシス主義では考えていたようです。
何故ならば、我々の生きる宇宙は現に悪がはびこっている、神が善なる存在であるならこの宇宙に悪がはびこることはないはずだ、つまりこの宇宙を創ったのは
「偽りの神ある」という考え方が基本にあるようです。
この偽りの神を「デミウルゴス」と呼びます。
古代ギリシア語でデミウルゴス( Δημιουργός )は職人・工匠という意味のようです。
ちなみにこのデミウルゴスはドラクエⅦの魔族の王「オルゴ・デミーラ」の名前の由来とも言われています。
偽りの神がいるという事は真の神がいるという事になりますが、デミウルゴスは真の神のマネをして宇宙を創ったが偽りの神でしかないのでこの不完全な宇宙が出来上がってしまったと考えられました。
そして、この偽りの神であるデミウルゴスの悪の宇宙で作られた我々人間の「肉体」もその存在は悪であるとされますが、肉体の中にある「霊」だけは真の神を認識するチカラがあるのでデミウルゴスにも勝る存在であると考えられていました。
この部分が物質(肉体)と霊の二元論へとつながるようです。
この考えをドラクエⅩに置き換えてみると、
真の神は創世の女神ルティアナであり、ルティアナのマネをして偽りのレンダーシアを創ったのが大魔王マデサゴーラとなり、マデサゴーラがデミウルゴスという事になるのでしょう。
そのマデサゴーラによって作り出された偽の勇者である魔勇者アンルシアが勇者として覚醒できなかったのもそもそもが不完全なマネゴトの世界だったからという事になるのかもしれません。
次はグノーシス主義に大きな影響与えたプラトンのイデア論について
プラトンの考えとそれに対する弟子アリストテレスの批判は破界篇においてもマデサゴーラとクマリスの対立に反映されていると思われます。
プラトンのイデア論
プラトンは( Πλάτων)は紀元前四世紀ごろに活躍した古代ギリシアの大哲学者です。
ちなみにこのプラトンという名前はレスリング選手だった時代のリングネームだったともいわれているようです。
イデア論とはプラトンの死後に彼の考えを研究するうえで名づけられたようでプラトン自身がイデア論という定義をしていたわけではないようです。
イデアとは「見られるもの・姿・形」といった意味で使われていました。
プラトンが生きた時代の古代ギリシア・アテナイでは相対主義が流行し、善・愛・正義などは時代や人によって変わるものであるからそこに絶対的なものはない。本質的な善・愛・正義はないと考えられていました。
それに対しプラトンは、
「本質はある。ただしそれは現実世界ではなくイデア界にある。」
という考えを提唱します。
良く出される例として三角形のイデアというものが在ります。
完全な正三角形を書くことは誰にもできない。よく見れば線が歪んでいたり角度が微妙に違ったりもっと言えば完璧な線であってもよくよく見ればそれは点の集合体でしかない。この世に完璧な三角形は存在しない事になる。
でも、誰しもが頭の中で正三角形といわれたときに思い浮かべる共通のものが在るはずだ。それこそが三角形のイデアでありイデア界にある本当の正三角形を魂が参照しながら思い浮かべているのではないか。という考えです。
つまり、この世に絶対的な・本質的なものなど無いと断言できるのは我々がどこかで絶対的・本質的なものを知っているからこそ無いと言えているのではないとなるのです。
イデア界とは魂が還る場所でありそこでの記憶が現世へ転生した我々に残っていて、学ぶ事によって思い出しているのだとする「想起説」をプラトンは説きました。
イデア界には全てのモノのオリジナルがあり、我々が椅子をみる時はイデア界にある椅子のオリジナルを参照しながら見ているとなるのです。
そのイデア界にでは「善のイデア」が最高のモノでありイデア界の秩序を形成している存在であるとプラトンは考えました。
もう一つ、プラトンは我々の生きる世界を「洞窟の比喩」という形で語りました。
地下にある洞窟に手足を縛られ前しか向けない状態に置かれた人たちがいる。
その後ろには炎が燃えていてその炎と人々の間には人形がある。
その人形が動くと炎の光によって洞窟の壁に影絵として映る。
生まれてからずっと縛られている人々はその影絵が影だと理解できず本当の存在だと思い込んでいる。
その中で一人だけ縄を解かれ外の世界を見せられた者がいっとしたら、その者は最初は戸惑うがこの世の真実を知り洞窟に戻り仲間たちにその事を語るが人々は誰も信じない。
真実を知った者は諦めて元に戻るしかない。最悪嘘を言っているとされ殺されてしまうかもしれないから。
この比喩では、炎の前にある人形がイデアであり、壁に投影されたイデアの影が現実世界で我々がみるもの、そして外の世界が善のイデアと考えられます。
これをドラクエⅩで置き換えてみると
イデア界が真のレンダーシア大陸であり善のイデアがルティアナとなります。
そして洞窟の中が偽りのレンダーシア大陸であり、勇者のイデアが影絵として壁に映ったのが魔勇者アンルシアだっとなります。
偽りのグランゼドーラの人々は魔勇者を本当の勇者だと思い崇めていましたがそれは、勇者の影に過ぎなかったということになるのでしょうか。
アリストテレスからの批判とマデサゴーラとクマリスの関係
このプラトンの考えに対し彼の教え子であり後に万学の祖とも言われるアリストテレスは批判しています。
イデア界は存在しない。
プラトンは美のイデアは全て人間に備わっていると考えていましたが、この世には醜がある。これをプラトンの考えで説明すると、醜のイデアが存在し完璧な醜であるにもかかわらず美のイデアも内包していることになる。
これでは矛盾がありイデア界の説明ができないと。
アリストテレスは目の前にるものをよく観察もせずにあるかもわからないイデア界の事を考えても無駄だと考えたのです。
アリストテレスはこの世の全ての物事は四つの要因から成り立つという「四原因説」という立場から、四原因の中の一つ形相因(設計図)の中にプラトンが言うところのイデアは有ると説きました。
プラトンは本質はイデア界という別の世界・外側の世界にあると考えたのに対し
アリストテレスは本質は物の中に設計図としてあると考えたのです
この師弟での考え方の違いはそのまま破界篇の「滅びの手マデサゴーラ」と「護りの盾クマリス」との関係に反映されていると考えます。
「滅びの手マデサゴーラ」はマデサゴーラの中にあった芸術家として自らの作品に満足できなかった心を元にファビエルによって作られた存在だと考えられます。
未完成で不完全な世界を残したまま死を迎えた無念から偽りのレンダーシア大陸を滅ぼそうと考えたマデサゴーラですが、それはルティアナの創ったオリジナルであるレンダーシアに対しての嫉妬心や憧れがあったように思えます。
つまり偉大な芸術家であるマデサゴーラにとっても世界の創世の手本・設計図の元はルティアナにあったといえるのではないでしょうか。
それに対し護りの盾アンルシアとして覚醒したクマリスは魔勇者アンルシアの中にあった世界を肯定する心を元にファビエルによって作られた存在であるので、このマデサゴーラを否定します。
元々マデサゴーラにによって作られた存在であった魔勇者アンルシアの魂の一部を持っているクマリスが造物主の考えを否定する。
造物主とはいえ偽りの世界とはいえ、すでにそこには生きている人たちがいるという現実を無視し美の答を別の世界に見ていたマデサゴーラと偽りの世界に生まれメルン水車小屋・セレド・アラハギーロで世界を肯定する愛の力を見たクマリスにとっては未完成で不完全な偽りのレンダーシアこそが守るべき・観察すべき対象となった。
クマリスは偽りのレンダーシアで生きる人たちの中に善のイデアともゆうべき美しき本質を見つけたのだと思います。
これはイデア界に答えを求めることで現実を理想的な社会に近づけようとしたプラトンと現実世界を観察することに答えを求めたアリストテレスの違いが元になっているのではないかと考えています。
クマリスの名前の由来
前置きが本当に長くなってしまいましたが、クマリスの名前の由来は
クマリス(熊・マリス)かクマリス(熊・ポラリス)のどちらかもしくは両方から来ているのではないかと考えます。
まず、熊は中世ヨーロッパの世界では失墜した王の権威の象徴であったという考えがあるようです。
旧石器時代から熊の骨は洞窟などに祭られギリシア神話やケルト神話にも重要な存在として登場し特に北欧やゲルマン人にとっては尊敬される王の象徴のような生き物だったようです。
しかし、キリスト教が普及してくると熊は王の象徴としての権威をはく奪され、悪魔のイメージに変えられ替わりにライオンが王の象徴となっていったようです。
魔勇者アンルシアも敗北によって権威を失墜させられてしまった事もありクマリスの名前に熊が付けられたのかもしれません。
次にマリスですが、ラテン語で「海の(Maris)」という意味です。
キリスト教世界では聖母マリア崇拝として「ステラ・マリス(星の海)の聖母」という呼び名が一般的にも使われることがあるようです。
※この呼び名は聖母マリア崇拝がキリスト教徒にとっての導きの星としての役割を果たしてきたことに由来するようです。
ユダヤ教徒は旧約聖書の中のイスラエルを比喩として海に例えていた事も影響しているとされています。
さらにこの名称は古くから船乗りたちの天測航法に星座と星にも与えられました。
またこぐま座のアルファ星である北極星はポラリス(Polarisu)とも呼ばれます。
クマリス(熊・ポラリス)はここから来てると考えます。
北極星はこぐま座に含まれた星ですので、失墜した王としての意味も含みながらクマリスの名前が表すものは「北極星」であると考えます。
よってクマリスが熊・マリスであっても熊・ポラリスであっても結論としては同じとなります。
ただ熊・マリスだった場合は偽レンダーシアの聖母としての意味合いがポラリスの場合よりも強調されるとも考えられます。
北極星は夜の航海で方角を見失わないように旅の無事を願う星でもありました。
マデサゴーラが死に破魂の審判を乗り越え新たな船出となる世界の「北極星」となる存在という意味がクマリスの名に込められているのではないかというのが私の推測です。
名前に北極星の意味が入っていると考えると破界篇のクエスト受注場所が偽りのレンダーシアでの冒険の始まりの場所でありグランドタイタス号の到着場所であった漁村ココラタの浜辺という事に納得感が増した気がしています。
最後に
今回も長いうえにドラクエに関係のない話が多く読んでくださった方には申し訳ありませんでした。
破界篇はシドーを倒してからの展開があっさりとしていてクマリスを置いてみんなで逃げちゃたりクリア後も住人たちの台詞が変わらなかったりで、若干消化不良な部分もあったのですがとても楽しめました。
それにファビエルの台詞で
「何もかも 偽物の世界で たった一つ......
そこに生きる人々の 魂だけは 本物でした。」
これは素敵でした。
ルティアナへの挑戦者となるためレンダーシアをまねて偽りの世界を創ったマデサゴーラとそこで本物の勇者の代わりとして作られた偽物の勇者だった魔勇者アンルシア
洞窟の中で真実を知らない人々が見せられる勇者の影絵としての役割しか果たせなかった魔勇者アンルシアでしたが、その心にあった世界を守りたいという思いがクマリスになり、偽りの世界で生きる人々の愛と世界を肯定する心に触れ、守りの剣として覚醒を果たした。
とても感動的だと思います。
例え偽りの世界であろうとも、世界の真実を知らないまま洞窟の中で生きてる愚かな大衆であろうともそこには命があり人生があり泣き笑いがあるのです。
それを守ったクマリスはもう本物の勇者なのではないでしょうか
クマリスの勇気と献身が偽りの世界の人々にとって北極星のような不動の輝きであり続けますように。
今回はここまで